スティラトップができるまで

スティラトップは、ボートネックと丸ヨークを組み合わせた、ゆったり身幅のかぎ針編みトップスです。
サイズは1〜6の6展開。

編み始めてからリリースまで、およそ5か月かかりました。

このページには、編み図には入りきらない話を書いています。

糸を選んだ理由、ヨークで2回ほどいた理由、サイズ展開をどう考えたのか。
そして、かぎ針編みでウェアをつくるときに必ずぶつかる制約の話などです。

糸を決めるまで

Isager Merilinでスワッチを編み始めたところ

4月15日、スワッチからはじまりました。

使う糸は Isager Merilin、色はライトグレー。
この糸は3度目で、1作目はショール、2作目はセーター、そして今回がトップスです。

杢調の色の出方と、リネンのほのかな光沢が気に入っています。
ウールとリネンが混ざることで、見た目だけでなく触り心地もしっとりと落ち着く。

長く編むことになるウェアだからこそ、手に馴染む糸を選びました。


ヨークという難所

ヨークを編みかけているところ

かぎ針編みのウェアで、最もエネルギーを注ぐのが分散増目のヨークです。

編み始めると止まらなくなる一方で、本当に難しく、スワッチを1枚編んだだけでは成功か失敗か分かりません。

今回も例外ではなく、増目の加減に納得がいくまで、2回ほど編み直しました。
迷ったときはほどくと決めています。

ほどくと、次は間違いないと思えて、むしろ気が楽になる。
ヨークはこの作品の要なので、妥協できない部分でした。


サイズ展開を考える

ヨークを終えて身頃に進んだところ

ヨークが終わり、身頃とそでを分ける段階で、いつもより深く考えたのがサイズ展開でした。

身幅の感じは、日本サイズでいうとM〜Lサイズくらいのゆとり。

ここで、私の中で2つの目的が重なります。
ひとつは、どこまでも大きく編めること。もうひとつは、幅広くサイズ展開したパターンであること。

この2つは結果として近づきますが、目指しているものは少し違います。

パターンとしての課題を解決できれば、おのずと大きいサイズまで届くはずだと考えています。
この日は、実際の目数と設計を通してそのことを考えていました。

もし考え込まなければ、身頃はもっと早く仕上がっていたかもしれません。


かぎ針編みウェアの制約と向き合う

身頃がほぼ完成した編みかけ

編み物でウェアというと、リブの入った棒針編みのセーターを思い浮かべる方も多いと思います。

かぎ針編みでも、棒針編みを彷彿とさせる作品を編むことができます。
1目ごとに編み地が決まり、目を落とす心配もなく、ほどきやすい。この気楽さはかぎ針編みの大きな魅力です。

ただ、ウェアとして見たとき、かぎ針編みは編み地の構造上、制約が大きいのも事実です。

私が特に意識しているのは2つ。

ひとつは、往復編みと輪編みで同じ編み地が編めないこと。
棒針編みなら輪でも往復でも同じメリヤスが編めますが、かぎ針編みではそれができません。デザインの自由度に直結します。

もうひとつは、引き返し編みが実質できないこと。
目立たせずに編み地へカーブをつけるのが難しく、これは着心地に関わります。

その一方で、かぎ針編みならではの強みもあります。

編み地がしっかりしているので、リブを編まなくてもデザインが決まる。
布帛のようなシルエットが編めるのは、かぎ針編みの面白さです。

今回の作品でも、その強みを活かす方向で形を決めていきました。


引き算の判断

袖を編み進めている途中の様子

身頃の裾を編み終えるとき、最後に模様編みを入れられるように目数を合わせてありました。

せっかくだから何か入れたい。
模様がないと「編んだ」という実感が足りない気もする。

でも、既製服を選ぶときに何度も感じたことを思い出しました。
「この飾りさえ付いていなければ」と。自分が加えようとしている模様はどうなのか。
そう問い直して、模様は入れず、仕上げ処理だけで終えることにしました。

引き算を選んだことに、自分で納得できた瞬間でした。


形になるまで

完成間近のトップス

そではイメージがはっきりしていたので、修正なしで編み終えられました。

ゴールが近づくにつれ、次に編みたいものがどんどん押し寄せてきます。
それでも手を動かし続けて、仕上げは浮かせスチームアイロンで。

編み地が落ち着くと、きちんとトップスの姿になりました。

浮かせスチームアイロンで仕上げた完成写真

サイズを確かめる

3XLのヨークの進捗

身幅はゆったりしていますが、これをSサイズと仮定して、大きいサイズまで無理なく展開できるかを実際に編んで確かめました。

この作品は、ボートネックと丸ヨークを掛け合わせたつくりです。
衿の中央が波打たないように、肩は「なで肩」の設計にしています。

ただ、なで肩にすると、万歳をしたときに肩と衿が一緒に持ち上がってしまうのが気がかりでした。
ヨークを編み直して調整したのは、まさにこのバランスです。

いかり肩の設計よりは多少持ち上がりますが、身幅にゆとりがあるので動きはスムーズ。
着心地に不安を残したくないという思いで、納得のいく形に落ち着きました。

サイズ展開は、まず一番小さいサイズと一番大きなサイズの2着を自分で編んで確認することに。
同じ作品をもう一度編むのは、安心できる一方で進みが遅くなりがちです。

考え事が減って飽きも来ますが、そのぶん動画を撮りながら編むなど、進め方を工夫しました。


パターンにする

パターン完成

この作品は、編み図づくりも並行して進めていました。

過去の失敗から学んだのは、漠然としたまま編み始めないこと。
考えているルールを先に目に見える形にしてから編むほうが、結局は間違いが少なくなります。

今回はとくに、衿もとの模様編みの整合性に神経を使いました。

日本語版と英語版の両方をつくる場合、私はまず編み図から始めます。
そのうえで英文パターンは、編み図を見ながら1段ずつ文章にしていく。
編み図と英文パターンでは、頭の使い方が違うとしか思えません。

7月24日、パターンが完成。
今回はじめてグレーディング(サイズ展開)に取り組みました。

ここは英語版づくりで数字のつじつまを合わせる作業そのもので、いざ始めると深く没入してしまう面白さがありました。
海外のデザイナーがこの重い工程を経てパターンを売っていることに、あらためて頭が下がります。

知ってしまった以上、今後は自分にも課していきたいと思っています。


テストクロッシェを経て

テストクロシェッターの方々の作品

テックエディターによるテクニカル編集のあと、7月26日にテストクロシェッター募集をさせていただきました。
ウェアの英文パターンは初めてで、英語でテスターを募集するのは正直緊張も。

けれど、ご応募いただいたみなさんに親身に対応していただき、最後まで安心して進めることができました。
日本語版: @moruco_0_0、@miha.knit.room、@yukkiy_note
英語版: @yin.crochet

テックエディットとテストクロッシェの両方を経たことで、設計そのものに誤りがないことを確認でき、自分では絶対に気づけない誤字や抜けも見つかったため、とても意義深かったと感じています。

自分でサイズ1とサイズ6の2着を編んでいたとはいえ、他の方が実際に編んでくださったことは、何よりの安心材料です。

9月22日、日本語版と英語版を同時にリリースすることができました。


完成した作品

着用写真(ばんざいしても動きがスムーズな様子)
  • サイズ:1(2, 3, 4)(5, 6)の6展開
  • 仕上がりバスト:109 (115, 121, 127) (134, 141) cm
  • おすすめのゆとり:胸囲に対して15〜20cm程度
  • 使用糸:ISAGER MERILIN(50g / 208m)Col. 3S Gray、約8(9, 10, 11)(12, 13)玉
  • 使用針:5/0号かぎ針、マーカー16個
  • ゲージ:模様編み 10 cm平方で、22目 × 19段(ブロッキング前)
  • 難易度:中級(基本技法のみ★★★★☆/間違いにくさ★★★☆☆/テンポの良さ★★★★☆/短時間で完成★★☆☆☆)
  • 仕様:日本語版 CH02-058(A4・19ページ、編み図+補足説明)、英語版 CH02-058EN(A4・22ページ、英文テキストパターン & 編み図、テクニカル編集を経ています)

ゲージはブロッキング前に測る前提です。水通し後に編み地が落ち着いて伸び、サンプルでは長さが8〜12%ほど増えました。糸や手の強さ、ブロッキングの方法によって変わるので、編む前にご自身のスワッチで確認してください。


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